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米子から発信して

全国に広まった建築手法

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オープンシステムという建築手法をご存知ですか? 1992年に米子市のプラスエム設計が考案し、今では全国で約140の設計事務所が取り組んでいます。この手法でこれまでに累計で6千棟を超える建物が建築されました。

オープンシステムは「建築主のメリットを最大化する建築手法」と言われます。そのメリットとは具体的にどのようなことをいうのでしょうか? この手法を考案して全国に広めた山中が、二つの住宅事例で紹介します。




事例1 島根県大根島/K邸

ポジティブな連鎖で
理想の家づくりを実現

海辺1

穏やかに広がる海。ライトアップされた江島大橋。米子鬼太郎空港の滑走路が放つ光。Kさんの家は、大根島の海辺に建っています。見るものすべてが美しく、中でも月明かりに照らされた海は息を呑むほどです。

Kさんはこの場所を偶然見つけました。度々訪れて、ここに家を建てたらどうかとあれこれ空想していたら、次第に夢が膨らみ頭の中ではほとんど現実になっていました。そんなある日、お隣のHさんから声をかけられました。Kさんが気になっていた島での生活を尋ねると、Hさんは親切にも役場、学校、病院、スーパーマーケット等を車で案内してくれました。

外観1
 
不便ではないかと心配していた島での生活でしたが、案外そうでもありませんでした。Kさんは、すぐに土地を購入し家を建てる決心をしました。そしてHさんに報告すると、設計事務所を紹介されました。「あのやり方はもっと広めるべきだと思って、勝手に応援団になったのですよ」。

それがプラスエム設計でした。Kさんはさっそくプラスエム設計を訪ね、限られた予算ではありましたが、思いの丈をぶつけました。じつはKさん、他にもハウスメーカーや工務店とも接触していたのですが、予算と要望事項とのギャップの大きさに苦笑されることもあったといいいます。

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しかし、プラスエム設計は違っていました。「面白そうだ、こんなふうに工夫すればできるかもしれない」とポジティブな言葉が続きました。

まるでスタッフのように
深く関わることができた
 
家づくりのコンセプトは妻とも意見が一致したので、「プチ・リゾート」に決めました。平屋建て、オーシャンビューのリビング、隠れ家的ロフト、BBQテラス、釣りが楽しめる庭等、半別荘のような家にしたかったのです。

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プラスエム設計の進め方は独特でした。基本計画は模型やCGで検討しました。設計に入る住設機器や建材を、仕入れ価格と照らし合わせて検討することができました。キッチンなどの住設機器は主にイエヒトの共同購入システムを利用しました。例えば、定価88万円のユニットバスが26万円です。しかも工事費込みの価格です。これにはKさん夫妻も驚きました。(建築業界って、すごい)

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工事の見積もりはそれぞれの業種毎にとり、比較検討して施工業者を選定しました。十数社の工事分割請負契約書をつくり、一同に会して契約会を行いました。家づくり内閣の発足です。
 
工事が始まると、K邸専用のメーリングリスト(ML)に日々報告が入ってきました。MLには、Kさん夫妻、プラスエム設計のスタッフ、すべての工事業者が参加して、関係者全員が常に情報を共有していました。

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「私も家内もプラスエム設計の一員になったように深く関わらせていただきました。オープンシステムだと工事の原価がすべて分かるので、本当の意味で私たち建築主と設計事務所とのコラボレーションができたと思います。家族で建具や床を塗るなど、施工に参加することもできました。正直、家づくりがこんなに楽しいとは思いませんでした」とKさん。




事例2 大分県国東市/O邸

遠隔地での
オープンシステム

2011年夏、山中は一本の電話を受けました。徳山高専土木建築学科のO教授からです。来春、定年で退官するので郷里の大分に家を建てることにした、オープンシステムでお願いしたい、というものでした。

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山中は考えました。旧知の先輩です。相談に乗るのは惜しみません。しかし、オープンシステムで受けることはできません。やむを得ず依頼を断りました。何故なら、山中はいつも、設計事務所を対象にした研修会で、次のように指導していたからです。

「オープンシステム(建築の分離発注方式)をけっして甘く見てはいけない。工期の短い物件と、遠方の物件はどうしても無理が生じます。断る方が無難です」。O教授の依頼は、工期と建築場所の両方に無理がありました。

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しかし、不思議な偶然が起こりました。O教授から電話を受けた翌日の朝、山中は出社しようと車のエンジンをかけたまさにその時でした。ラジオから大成教授の声が飛び込んできたのです。NHKの「おはよう中国」で、O教授がインタビューに答えていました。
 
O教授から再び電話が入りました。「家づくりのすべてを任せたい。遠隔地でもできるはずだ。何とかやってもらえないだろうか」と。
 
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偶然、ラジオでO教授の声を聴き、運命的なものを感じていた山中は、遠隔地でのオープンシステムに挑戦してみることにしました。図らずも、O教授から背中をぐいと押される形になったのです。


家づくりを成功させる
最大の戦力は建築主自身

「山中さんは、私たちの要望に対して建築費がオーバーするのではないかと心配され、私たちも、いくらかの変更は仕方がないと割り切っていました。しかし見積もりを集計すると、何の変更もせずに予算内に収まり、オープンシステムの威力を見せつけられた気がしました」とO教授。

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そして、「大工さんはこの設計思想や建築手法に驚き、『この家の工事で実践的に学ぶことができた』と強く語っていました。他の職人さんたちも、オープンシステムの手法に共鳴して参加されたのですね。そのことを工事中に実感しました。職人さんたちの覇気がどんどん伝わってきて、徐々に私もその渦に巻き込まれていきました。よい家とは、このようにして出来上がっていくのですね」と。

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山中は、この遠隔地での経験を通して、オープンシステムの新たな技術を発見しました。それが大根島のK邸でも登場したMLの活用です。MLは、関係者全員に配信されます。履歴も残るので、従来の建築工事にありがちな「言った、言わない」の水掛け論は起きようがありません。また、連絡、報告、指示などのミスを未然に防ぐ利点もありました。
 
しかし、最大の利点は、O教授の参加で職人のモチベーションが上がったことです。職人が写メールでその日の工事を報告すると、それに対してO教授が「皆が休んでいる日曜の朝に壁を塗ってくれてありがとう」等と返信します。これで、モチベーションが上がらない職人はいません。

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どんな建築主も思っているはずです。自分の家だけは絶対に失敗したくない、と。そして、良い家をつくるためなら、自分にできることは何でもやりたい、と。しかし実際、建築主にできることはほとんどありません。その原因は、元請業者と下請業者という建築業独特の多重下請け構造にあります。
 
オープンシステムは、建築主自身が家づくりの主役になる、という思想で貫かれています。それがMLの活用でさらに確実になりました。遠隔地での家づくりを通して、山中は確信しました。どんなに優秀な建築士でも、職人に対して建築主ほどの影響力を持つことはできない。良い家をつくるための最大の戦力とは、じつは建築主自身なのだ、と。

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合理的な工事費

家づくりで最も金額が高いのは、大工工事でも基礎工事でもありません。それは、元請業者の経費です。工事費の25〜35%も占めています。2千万円の工事費なら、500〜700万円にもなります。
 
オープンシステムは、その元請業者の経費を発生させない手法です。設計事務所と建築主が協力して、元請業者を介さずに専門業者と契約します。実際に工事を行っているのは専門業者の職人たちですから、何の問題もありません。仕様や材料を変更するのではなく、中間経費を削ったコストダウンです。同じ建物なら安くなり、同じ金額ならグレードアップできるのは当然です。

契約会
 

参加して楽しむ

自分の家なのですから、お金だけ用意して完成を待つだけなんて、面白くありません。職人は、作業をじっと見られていると監視されているようで嫌がりますが、一緒に作業すると仲間として受け入れてくれます。案外、親切な人が多く、訊けばいろんな技を教えてくれます。それと、実際に家づくりに参加して、その過程を見ることは、住み始めてからいいことがいっぱいあります。

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職人と仲良くなると家のメンテナンスに役立ちますし、自分でもある程度のことができるようになります。いずれにしても、家づくりほど楽しいことはありません。参加して思い切り楽しんでいただきたいと思います。


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オープンシステムは、専門的には「建築のCM分離発注方式」といいます。1993年にプラスエム設計が初めて行い、業務の手順や書式などを整えてきました。ここには、一括請負の建築業者が存在しません。元請・下請という関係もありません。建築主と、設計事務所と、専門業者の三者がそれぞれの役割を担い、互いが目的の建築物を完成させるパートナーの関係となります。

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建築工事はすべて専門業者(下請)が行なっています。住宅会社(元請)の主な仕事は、専門業者の手配と予算の管理。住宅会社は建築主が深く関わるのを嫌がります。知られたくないことが沢山あるからです。建築主が専門業者と直に契約したら、お金の使われ方が明確になり、不必要な中間経費が排除されます。


プラスエム設計代表/イエヒト代表/一級建築士
山中省吾(やまなかしょうご)
米子高専建築学科一期生でただ一人、鳥取県内に就職(設計事務所)。1988年、山中設計(現プラスエム設計)を設立。1998年、オープンシステムの設計事務所を組織化し、イエヒトを設立。主な著書に2001年ベストセラーとなった『価格の見える家づくり』。オープンシステムは、NHK『クローズアップ現代』やテレビ東京『WBS』など多くのメディアで取り上げられた。




海辺の景観を楽しむ家 K樣の声

リゾート地のようなところで暮らしたいと、ずっと思い描いていたKさん。思いの丈をぶつけてみると、ポジティブな言葉が次々と返ってきました。


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「家づくりを楽しむ」

事例満載です。壁塗りに挑戦した家族、床の塗装をやり遂げたご主人。それぞれに楽しみ方は違いますが、こだわりを実現していく姿は共通です。

② GUIDE BOOK
「家づくりをトコトン楽しむ」

家づくりを成功させるには何をすればいいか、何が必要か。建築主・設計監理者・専門業者、それぞれの立ち位置と役割を具体的に書いています。

③ マンガ小冊子
「価格の見える家づくり」

住宅会社に全てお任せではなく、思いを確実に反映させる方法とは何か。登場人物は仮名ですが、二つの家づくりをミックスした実話です。


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