業者は既に決まっていた

何故、分離発注を考えたのか。そのきっかけを話します。高専の建築学科を卒業して、地元の設計事務所に就職しました。先輩のラフスケッチを作図し、建築現場で監理の要点を教わり、3年ほど経つと簡単な建物の設計・監理を担当するようになりました。

就職した設計事務所は地元では大きな方でした。公共施設の仕事が多くありました。私が最初に担当した建物は、農業施設でした。国から補助金をもらってつくる施設だったので、役所の人たちと接する機会が増えました。

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あるとき、役場の課長と農協の係長と打合せを兼ねた昼食会を持ちました。課長と係長は、周りを気にすることもなく、いつもの口調で切り出しました。

「こんどの工事は〇〇組だったよね」

ごく普通の会話です。しかし、これから入札で請負業者を決めようというタイミングですから、本当はとんでもない内容です。

(すでに請負業者が決まっている? 入札は単なる形式?)

そんなことを考えながら会話を聞いていました。設計監理者として駆け出しの私は、おかしいという思いより、設計監理者の特別な地位という方が先に立ちました。設計事務所という特殊な職業に就いたので、一般の人は知ることのできない特別な情報を教えてもらっている、と思っていたのです。

事務所の先輩たちも、談合が行われていることは知っていました。公共施設を担当すると、どこかで耳に入るのでしょう。しかし、事務所内で互いにそういう会話をすることはほとんどありませんでした。触れてはいけないという意識があったので、それぞれの胸に収めていました。

113_対談風景

公共工事、つまり補助金の交付を受けて行う工事に関してもう一つエピソードがあります。国の税金を使う事業ですから、会計検査院のチェックが入ります。それを前提に、設計事務所では図面や書類を整えます。時には実際のものとは違う書類を作成するよう上司が指示します。会計検査院の検査に備えるためです。

事務所内では、実際とは別の設計図面や見積書をつくるのを「作文する」と言っていました。つじつま合わせのことです。国の税金を使う補助金事業の裏側には、複雑な駆け引きがあるのだろうと察していましたが、そのときはあえて積極的に掘り下げることでもないと思っていました。

食事会の会話も含めて、談合に関して言うなら、ずっと民間業者が悪の根源のように言われてきましたが、少なくとも私が知った40年以上前は、本当は役所の人たちも承知の上での談合でした。いや、むしろ役所の人たちが主導する談合だったと言ってもいいくらいです。

こういうことを書くのは憚られます。しかし、これから話を進めるにあたって、建築のことをより実感をもって分かっていただくには、ありのままがいいと思って書きました。私が体験した談合にまつわる話はもう40年以上も前のことです。当時の町役場の課長や農協の係長のことなど、誰も覚えていなだろうし、詮索する人もいないと思います。

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あれから40年経った平成の終わり頃、私たちの建築手法である公共施設が完成しました。福岡県田川郡糸田町の多目的施設『いとよーきた』です。

限られた予算の中でどれだけのことが実現できるか。糸田町が設計事務所にアイデアを公募しました。採用されたのはプラスエム設計の建築手法オープンシステムでした。公共施設では全国初の出来事です。

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