建築主と設計者が一緒にDIY

レストランの社長に声をかけました。
「時間が取れるなら、一緒にしませんか? できる作業は限られていますけど、いくらか工事費が浮きますよ」

さっそく社長は軍手を買ってきて、危険を伴わない軽作業や掃除などを、職人達に交じってやり始めました。建築主と職人が一緒に工事をするのは珍しいことですが、本来、物をつくるのは楽しいことです。

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建築主と設計者の共同作業が始まりました。むき出しになっていたコンクリートの柱にノミを入れて模様を描いたり、サラダバーに使うテーブルをつくったりもしました。

こんな調子で工事は進みました。本来なら工事金額を確定してから工事に着手すべきですが、何しろこの改修工事は1ヶ月後には完成させなければならないので、専門業者と1社ずつ金額を交渉している時間的な余裕はありません。最優先すべきは「完成期日」です。工事費の大まかな目安はおさえた上で、着工してから考えるよりしかたがありません。

ちなみに、工事金額が確定しないうちに工事に着工すると、大やけどをする危険があるので要注意です。予定金額をオーバーしたり、途中で大きな変更が生じたりして、分離発注のメリットを受けるはずだった建築主に、逆に大きな負担を負わすことになりかねません。したがって、分離発注で工事を行う場合は、本来はそれぞれの専門業者の金額が確定し、工事請負契約書を交わした後でなければ着工してはいけません。

どうしてもやむを得ない事情(例えば完成を急ぐとか)で、専門業者の契約を後回しにする場合は、発生するリスク(予定価格のオーバーとか)を、建築主自らが負う覚悟を持たなければなりません。

予定価格より二割も安く

1ヶ月後、この工事は無事に完成しました。案ずるより産むが易し。工務店に頼らなくても工事は無事に完了したのです。そして私自身は、建築士として得がたい体験を積みました。工事費が当初予定していた金額より二割も安くなるという、大きな副産物まで得て。
 
工務店というのは、「工事現場を管理する技術」を提供し、その対価として報酬を得るのが本来の姿だと思います。何が売り物かといえば、それは「技術力」のはずである。けっして建築材料に上乗せして利益を稼ぐのが本来の姿ではありません。もしそうであるなら、建築の小売業と言ったほうがよいと思います。

工務店は、施工管理のプロです。通常アマチュアがプロと同じことをしたら、プロの何倍もの労力を費やし、ときには無駄な作業も発生し、結果としてコストは高くなるものです。だから、プロには高い報酬を支払ってでも依頼する価値があります。
 
ところが今回の建築工事はどうでしょうか。施工のプロ、つまり工務店の力を借りることなく設計者と専門業者で進めたにも関わらず、工事は無事に完了し、工期も予定通りに進み、しかも工事費まで安くなりました。これをすべての建築工事に当てはめるのは無理だと思いますが、この体験を通して工務店やハウスメーカーという「元請会社」の存在とは一体何なのだろうか、ということを考えさせられました。

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