店舗の改修工事を

分離発注で料理する

設計事務所の立場からずっとこの業界を見てきました。他の業界では考えられないことが、この業界ではあたりまえのように行なわれていました。「どこかおかしい」と、ずっと思っていました。それが、ある工事の体験を通して、より強く思うようになりました。

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1992年春、レストランの設計が舞い込みました。新築工事ではなく、既存店舗の改修工事です。それまで私の事務所は、他の事務所と何ら変わらないごく一般的な設計事務所でした。今回の工事も、今までと同じように、設計図面を基に数社の工務店から見積もりをとって、最も適切な金額を提示した工務店が工事を行う予定でした。
 
ところが、飲食店の工事にはよくあることで、開店の日から逆算して日程を組むと、時には突貫の工事を強いられることがあります。この工事もそうでした。「開店の日」から逆算すると、実質の工事期間は30日しか取れません。

この工事では3社の工務店に見積りを依頼しました。見積もりはすぐに出てきましたが、どの工務店も30日の工期では厳しく、60日は必要だと言います。レストランのオーナー(建築主)と工事期間の延長を協議しましたが、結論は初めから決まっていました。開店の日を延ばすことは到底無理な相談です。

当時、地方都市の建築業界にはまだバブルの余波が残っていて、職人が思うように集まりませんでした。なにも面倒な改装工事を受注しなくても、もっと効率のよい工事を優先した方がいい、という気持ちが工務店に働いたのかもしれません。

飲食店は「いつ開店するか」が重要です。盆、暮れなどの「書き入れ時」に照準を合わせて開店する方が有利だからです。しかも飲食店の改装工事の場合は、工事期間中の売上が無いからといって、社員の給料を止めるわけにいきません。工事期間の延長は店の死活問題でもあるのです。

「何とかならないだろうか」とレストランの社長の問いかけに、案外、何とかなるかもしれない…と考えを巡らしていました。

(工務店の中に建築職人はいない。工務店は工事を受注すると、工事の中身を業種ごとに分解して、下請業者に発注する。おそらく、この工事を短期間で終わらすのは大工次第だろう。通常、このような改修工事は、床や天井を剥ぎ取ってみなければ厳密に見積もりができないところがある。工務店もたぶんこのような工事は、構造の補強などいざというときの予備費をいつもより多めに見積もっているに違いない…。)

そして、おもむろに切り出しました。
「社長は、料理は上手いよね?」
「?…。あたりまえじゃ!それがどうした!」
「改修工事も料理できるかな?」
「???…」

こんな会話を交わした後で、思い切ってやってみることにしました。もちろん、レストランの社長にも重要な役目を担ってもらいます。工務店ができないというのなら、レストランの社長自らが、この工事のために、臨時の工務店になったと思えばいいのです。かといって、施工業者の登録をするというのではありません。社長自らが、工事に必要な専門業者への「発注機能」を持てばいいのです。

画像の説明
 
実際、工務店の中に建築職人はいません。工務店は、建築主と工事請負契約を交わして、その金額の範囲内で下請業者を手配し、工事を完成させます。建築主から受け取った工事代金から、下請業者に支払った金額の差額が工務店の利益です。

つまり、建築工事そのものは、工務店が行っているのではありません。ノコギリを持つ大工、コテを使う左官、そして配線をする電気工などの下請業者が額に汗して建物をつくっています。工務店は、下請け(専門業者)に工事を振り分けるコーディネーターのようなものです。

「社長!臨時の工務店の社長になってみませんか?」
「そんなことができるものか?わしは、肉の料理はできても、建築はできん」
「社長はできなくてもいいですよ。腕のいい料理長を雇うように、優秀な建築技術者を側に置けばいいのですから」
「1ヶ月の工事期間中だけか?」
「そうです」
「そんな技術者がいるのか?」
「いますよ。社長の目の前に」
 
ストーリーはこうです。工事期間中の1ヶ月、社長の右腕として、設計監理者の私が工事を取り仕切ります。厨房でいえば料理長のような立場です。料理長は、食材の仕入れやレシピの計画を立て、社長の承認を受けながら進めます。それと同じように設計者が、大工、左官、内装、建具、塗装、電気、水道、空調などの専門業者を手配し、社長と相談しながら発注するのです。

社長の仕事はお金の管理です。つまり、工事が完成したときに、工事に携わったそれぞれの業者に工事代金を支払うことです。ちなみに、この工事で「儲け」が出たとしたら、それはすべて社長に還元されます。



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