風と麦の家

N子さんは家を建てることになった際、朝起きてから夜寝るまでの理想の一日の過ごし方を細かくノートに記しました。程なくして打ち合わせが始まり、コンセプトは「風と麦の家」に決定しました。N子さんの「風通しがいい家」という願いと、ビールを趣味に持つ私の「ビール(麦酒)好きが喜ぶ家」の願いが込められたのです。


風と麦の家1

最も印象的だったのは、工事分割請負契約会です。大工をはじめ、基礎、板金、電気工事など20社近い業者が、「私は○○工事を行う○○です、よろしくお願いします」と、一社づつ挨拶を交わして行う調印式。「まるで内閣誕生みたいだね」。+M設計のエントランス階段での記念撮影時、いやがうえにも私たち夫婦の期待は高まりました。

張り切るN子さんにとって、家づくりは「楽しい」と「しんどい」が同居するものでした。間取りや動線を始め、食器棚の段数や照明、洗面台のボウルに至るまでとことんこだわったからです。


風と麦の家3

建築士の山田さんや職人さんたちは、思い以上の仕事で応えてくれました。山田さんは手すりに転落防止ネットを設置したり、仕事部屋の棚を作ったり、あたかも自分の家を建てているかのように取り組んでくれました。キッチン上の照明は電気工事の人と現場で直接対話を重ねて完成しました。

N子さんは連日現場を訪れましたが、行けないときは職人さん自らが送ってくれるメーリングリストのメッセージや写真で進捗状況を確認することができました。その画像を見るのも楽しみでした。一方、私はビールサーバーを置きたいと夢を膨らませました。さらに、ロフトに「ボトル観賞ルームを作る!」と子どものようにはしゃいでいました。


風と麦の家2

家の完成間近、私たち夫婦は実家の家族や友達を招いて壁や建具の塗装に挑戦しました。床のオイルステイン塗りや仕上げのクリーニングも業者を使わず自分たちの手で行い、思い出をつくるとともに節約にも成功しました。

そして、ついに家が完成。+M設計に加えて工事関係者たちを招いた完成披露会で、私は自慢のビールサーバーから出した生ビールを得意げに振る舞いました。大胆な吹き抜け構造を採用したため冬の寒さが心配でしたが、エアコン一台で家全体が暖まるなど、実際に住んでみて優れた断熱性能を実感しました。


風と麦の家4

「朝、小鳥のさえずりを耳にしながら起床。庭の見える明るいリビングに出て、今日の天気を確かめる。お湯を沸かしてコーヒーを淹れる…」。風が通る心地よい新居に暮らし始めたある午後、N子さんはふとノートを目にしました。読み返して驚きました。家づくりを始める前に細かく描いた通りの生活が送れている、と。