百年後のゆとりを

実感できる平屋住宅


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「設計料が300万円だなんて詐欺だ!絶対に騙されてる」
親父が激怒していた。そんなタイミングで、工事に先行して納屋を解体。よかれと思ってしたことが、最悪のタイミング。建築士、大ピンチ

施主(建築主)は、オープンシステムに魅力を感じて踏み切ったのですが、そこに工務店も参戦してきました。値引きは、な、なんと300万円。家計簿は凄い。と言うより、奥さまが凄いのです。見積書には記載されませんが、家づくりにはいろんな出費を伴います。家計簿から抜き出した貴重なデータは、これから家をつくる人、必見です。薪ストーブの導入で騙されそうになったご主人。奥さまが考えて建築士が具体化した収納の工夫……。

いろいろありましたが、職人の顔が見え、お金の流れが見え、品質が見えました。そして百年後のゆとりを実感できる家ができました。

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詐欺だ!
絶対に騙されてる!

何十冊も建築の本を読見ました。住宅見学会にも足を運びました。インターネットでも調べました。勉強会にも参加しました。研究に研究を重ねました。そして、夫婦で納得して契約しました。でも、周囲はほっときませんでした。

「設計料が300万円だなんて、ふざけている。詐欺だ。絶対に騙されている」と親父。
「知りあいの工務店は設計料はいらない、工事費に込みと言ってる」とお袋。

何しろここは、何十年ぶりに新築の家が建つという集落です。そもそも「設計」や「監理」の概念がありません。まして、「マネジメント」だなんて。いいえ、大都会だって同じです。住宅の設計・監理に300万円と聞けば驚くかもしれません。

設計・監理にもいろいろあります。確認申請だけの設計なら詐欺です。工事をすべて工務店に任せる監理なら、ぼったくりかもしれません。

プラスエム設計は違います。建築士としての作業量がべらぼうに多いのです。もちろんその分、施主(建築主)の得るものもべらぼうに大きいのですが、それが分かる人はほとんどいません。

一体、どこが違うのでしょうか。始めて聞く人は驚きますが、よく考えてみれば当たり前のことなのです。


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先行して納屋を解体
最悪のタイミング 大ピンチ

集落と田圃を区切る一本の道。南側に田圃、北側に集落。どの家もすぐ裏は山。田圃の向こうには里山が見えます。ここに着いたとき、蛍の里を思い浮かべました。聞けば、やはり昔は、このあたり一面に蛍が飛び交っていたといいます。


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Sさんの家は、母親の実家の一角に建ちました。母屋があり納屋があり、作業小屋があります。この集落はどの家も敷地が広く中山間地特有の家構えです。建築士の黒土は、最初に敷地の状況を調査しました。調査といっても、まずは目視です。この時点で最も重要なのは地盤の強度を確認することです。

黒土の目は小さな変化も見逃しません。納屋や作業小屋の基礎のあたりが、微妙に波打っています。塀も波打っています。

Sさんの家は、納屋を解体した跡地に建てる予定です。ヤバイ、だいじょうぶだろうか。地盤改良が必要か、あるいは杭が必要か。

そこでSさんに提案しました。まずは、地盤調査をしましょう。結果次第で基礎の設計が変わります。思った通り、軟弱地盤でした。住宅では珍しいかもしれませんが、鋼管杭を打つ基礎の設計にしました。

それからSさんの了解を得て、納屋を解体しました。ずいぶん古い納屋でもあるし、もう使っていないから、あまり重大なこととは思いませんでした。ところが、エライことになりました。大事件の勃発です。


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「お父さまから一喝されてビビリました。これで終わったと思いました」と、建築士の黒土。もしかしたら、息子は建築士に騙されているかもしれん、と疑われていた時に納屋が解体されたのです。よかれと思ってしたことが、最悪のタイミングでした。

登記上、納屋の所有権はおばあちゃんになっていました。そのおばあちゃんは、入院中でした。ちゃんと相続ができないままに解体して問題は起きないか、ということをお父さんは心配したのです。

「もし問題が起きたら、解体した納屋を元に戻せ!」
大ピンチ。あまりにうろたえる黒土の姿に、きっとお父さんは、「正直者」を見たのでしょう。助け舟を出しました。

「あんたの知り合いに、司法書士や土地家屋調査士がおるやろが。相談してみちょってくれんか」

さて、相談の結果は? 運よく何の問題もありませんでした。滅失登記に支障はなく、黒土は胸を撫で下ろしました。


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いまはやめといた方がいい
FPの助言に、びっくり!

建築士の黒土は、家づくりにはFP(ファイナンシャル・プランナー)が参加した方がいいと思っていますが、住宅に詳しいFPは業者のひも付きが多いのです。それでは困ります。だれかいい人いないかな、と思っていた時に、FPの鶴さんと出会いました。

「建てない方がいいと判断したら、そのまま施主(建築主)に言うけど、それでもいいですか」と、鶴さんが言いました。

「家をつくることで不幸になるなら、家などつくらない方がいい。ありのままに伝えるべきです」と、黒土。

二人が出会ったときの最初の会話がこれです。建築士の黒土もFPの鶴さんも、馬鹿がつくほど正直者でした。


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取材の知らせを聞いて駆けつけてきたFPの鶴。奥さまと「GOサインの企画書」を見て、あの頃を振り返る。「何年後に、月々の生活費はこれだけ、と鶴さんが数字で示してくださったことで、すごく安心しました。ここまで使っても大丈夫と、数字で把握できないと不安なんです。私は、どうもそういう性格なんです」と奥さま。

「びっくりしました。だって、今はまだやめといた方がいいと、鶴さんが言うものですから」と、奥さま。

Sさん夫妻は、住宅会社の展示場にも足を運び、いろいろ比較検討していました。どこの住宅会社も、Sさんの収入ならいくらでも住宅ローンが組めるからと、なるべく早い時期の決断を促してきました。

ところが、鶴さんだけは違いました。やめといた方がいと言うのです。鶴さんは、今の状態で土地と建物の両方にお金を費やした場合、Sさんの家計がどう推移するか分析してみました。すると、最も教育費のかかる時期に資金不足が予測されました。それで「NGサイン」を出したのです。

「それまでは土地も購入しようとしていたのですが、子供の教育費にお金がかかる一時期、かなり無理が生じることが分かりました。鶴さんのNGサインで、冷静に再検討することができました」と、Sさん夫妻。

おばあちゃんの土地に建てると決めたのは、そういう経緯があったからです。

斬新なボックス型から
景観に配慮した和風に

鶴さんのNGサインから半年も経っていたので、Sさんから連絡をもらった黒土は驚きました。この半年の間、Sさん夫妻は家づくりの研究を重ねながら「安心できる資金計画」を検討していたのです。

Sさん夫妻は、建築士に斬新なデザインの家を頼むつもりでしが、建築予定地は「蛍の里」です。ボックス型の斬新なデザインだと、浮いてしまうかもしれません。

建築士の黒土と、建設予定地に立って完成した建物を想像してみました。そして結論を出しました。やっぱりここには、和風の住宅がしっくりくる、と。

Sさん夫妻の基本方針

これまでしっかり勉強してきたSさん夫妻。機能や性能面での基本方針は、ある程度固まっていました。

《外部》
・景観に配慮。
・すっきりとした和風のデザイン。
・屋根、外壁は耐候性のいい材料。

《内部》
・家族が集まる「食事」「団欒」の広いスペースを中心とした間取り。
・中心のスペースは天井を高く。
・20年後、30年後の生活を想定し、将来にわたり無駄なスペースを生じさせない。
・外観と調和した内装。
・自由性の高い畳敷きの部屋。
・既存の家具を部屋内に置かない。
・家事の負担を軽減。子供が小学校に行くころ、奥さまは再び働く予定。
・デッキを設けるなど、外と内との連続性を高める。
・外部からの視線の遮断。プライバシーの確保。
・大黒柱を設けたい。

《その他》
・外部も内部もできる限り自然素材を使う。
・高気密、高断熱。
・結露を少なく。
・オール電化。

奥さまのアイデアを
建築士が具体化した収納

基本設計の時、収納計画をたてるにあたり、建築士の黒土は自らの引越しの経験を踏まえて、家具・物品を3種類に分類することをアドバイスしました。

①絶対にいるもの
②いるか、いらないか悩むもの
③いらないもの

奥様の分類の結果をうけ、建築士の黒土は新居に持ち込む全ての家具・家電等の大きさや電気容量を調べ、納戸の広さ等を決める根拠としました。

また、平面図に家具の位置を書き入、家具・家電の位置を設計時にあらかじめ決めることにより、詳細設計時に、スイッチやコンセントの位置や必要個数を効率よく決めることが出来ました。


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奥さまは、衣類や小物をどこにどのように収納するかを考え、整理したうえで、自ら手書きの図面を5枚も描きました。奥さまの図面を基に、建築士の黒土が細部を詰め、設計図に描き込みました。

造り付けの下足入や収納棚の材料は建材店から直接購入し、本体は大工に組み立てを依頼し、引出しや扉部分は建具職人に製作を依頼しました。こうした臨機応変の依頼ができるのもオープンシステムの特色のひとつです。

引越し後、黒土がSさんの家を訪ね、設計時に奥さまが分類したとおりに収納されているのを目にし、おもわず奥さまに「予定通りですね!」と声をかけました。


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納得するまで検討した
四角形とH型のプラン

アプローチには、解体した納屋から出てきたみかげ石を配置。ちょっと風情があります。和瓦の緩い勾配の切妻屋根の軒先は、ガルバリウム鋼板でアクセントを付けています。外壁は漆喰塗り。定規を使わない櫛目仕上げは、自然で素朴な感じが強く出ています。そして腰壁の部分は焼き杉。


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ご主人が出てこられ、中へ招じ入れられました。玄関、ホール、和室は、外からの連続性を持たせるため、漆喰塗り櫛目引きです。他は、貝殻漆喰仕塗装仕上げとしています。床は杉板張り。ほっとします。ここにいるだけで癒される。そんな感じの家です。


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さっそくご主人に質問。

設計にどれくらいの期間がかかりましたか?

プランを決めるまでに2ヶ月間、実施設計に正味2ヶ月間。設計期間は計4ヶ月間でした。

プランは、何種類つくりましたか?

大きく分けると2種類です。四角でシンプルなパターンと、H型のパターンです。四角なパターンで十分納得していたのですが、後悔したくないので敢えてH型のプランも追及してみました。平面に凹凸があるほど工事費は高くなる、ということを概算工事費で確認し、納得した上でシンプルなパターンに決めました。



さて、ここから資料編です。気になる光熱費、家づくりに関する様々な諸経費などを奥さまの家計簿から拾ってみます。それから、薪ストーブの設置で騙されそうになった話など、興味をお持ちの方はぜひご覧ください。

顔が見え 価格が見え
品質が見えた 家づくり

高断熱で光熱費が4万円も安く

家が完成して1年過ぎました。家計簿から光熱費を抜き出して以前の家と比べてみました。すると、1年間で4万円の光熱費が浮いていました。


グラフで表すと以下のようになります。左が以前住んでいたときで、右が新しい建物に入居してからです。左の棒グラフは下から電気・ガス・灯油。右はオール電化なのですべて電気代です。


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そして、月々の光熱費を数字で比較すると以下のようになりました。


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以前住んでいた家は鉄筋コンクリート5階建ての共同住宅でした。その1階にSさんは住んでいました。間取りは3LDKでしたから、おそらく70㎡くらいの床面積と思われます。新しい家は床面積100㎡で、ロフトがあり、天井も高いく、室内の体積はおそらく以前の家の2倍はあると思われます。

それなのに、光熱費が安くなりました。高気密・高断熱・オール電化の効果と思われます。蓄熱式暖房機具とエコキュートも影響しているかもしれません。ちなみに、以前と今、生活のスタイルはほとんど変わりません。ご主人はサラリーマンで、奥さまは専業主婦です。唯一違うのは、二人目の子供が生まれたことです。

設計料・工事費以外に必要な費用

家づくりは、人生最大のイベントです。近隣へのあいさつ回り、地鎮祭、上棟式、登記、引越……。見積書には記載されませんが、人生最大のイベントには、数々の必要な出費があります。奥さまの承諾を得て、貴重な家計簿から、「Sさんの家新築工事」に伴う出費をすべて抜き出しました。

これから家をつくる人、必見の資料です。家計簿は凄い。というより、奥さまが凄いです。


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いかがでしたか? 奥さまは偉大ですね。

元請け業者を介さず専門業者と契約

設計を終えると、やっとひと安心ですが、この家はここからが正念場です。建築士黒土はSさんの希望もあって、元請け業者を介さず直に専門業者と契約する方式「オープンシステム」で進めていました。

この方式は、専門的にCM(コンストラクション・マネジメント)方式といいます。元請け業者を介さずなんて、そんな大胆なことができるのでしょうか。そのようなことを始めると、建築業界が大騒ぎするのではないでしょうか。一般の人は驚くかもしれません。

しかし建築の専門家は、その良さをすぐに理解します。昔は、そうやってつくったものだと。もしそれが可能なら、施主(建築主)にとっていちばんいい方法だと。

分離発注を伴うCM方式は、施主が直に専門業者と契約するため、元請け・下請けの関係が存在しません。施主建には、お金の流れも、職人の顔も、品質監理の過程もすべて見えます。

Sさん夫妻は、CM分離発注方式を知り、黒土さんの「住まい・生活設計研究会」へ参加し、メリット・デメリットも十分理解した上で依頼しました。

58業者に呼びかけて、53業者が参加した見積もり

かねてより設計に取り掛かっておりました『Sさんの家』が、いよいよ見積もりを開始する時期となりました。つきましては……。

建築士の黒土が専門業者に見積もりの参加を呼びかけたFAXです。案内を出した業者は29業種58社で、53社が見積もりの参加を希望した。一つの業者が二つ以上の業種を見積もるケースもあるので、延べ79通の見積もり書が提出されました。

次に黒土が行なったのは、見積もり方法の説明会です。ここで大事なのは、それぞれの業者に「見積もりの条件」を正確に伝えることです。黒土は、業者が勘違いしないよう「見積もり要綱書」を作成し、書面で説明しました。

見積もり要綱書には、質疑や回答の方法、見積書の形式、提出期限など20項目ほどの説明を記しています。見積もりの条件を変えると、見積もり金額も変わるからです。そういう意味で、設計図面がしっかり整ってないと、正確な見積もりを算出しようがありません。

例えば、建具1枚見積もるにしても、大きさ、材種、厚み、デザイン、長番、取手などすべて記入してなければ、見積もることはできないのです。

黒土は、『Sさんの家』で、33枚の設計図面を描きました。配置図、平面図、立面図、断面図、建具、家具、各種詳細図、構造図、設備図などです。そして黒土とSさんは、79通の見積もり書を丹念にチェックし、24業者と工事請負契約を交わしました。


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見積もり・工事請負契約で大切なポイント

黒土は、このような分離発注方式で行うのは、Sさんの家が初めてだといいます。たとえ一級建築士の資格を持っていたとしても、分離発注方式の経験のない者がいきなりできるものなのでしょうか? 黒土に聞きました。

よくこれだけの専門業者が見積もりに参加しましたね。

先輩たちのおかげです。福岡の地域にも分離発注を行う設計事務所の会があって、専門業者の情報を共有しています。

分離発注方式を専門業者はすぐに理解できましたか?

「施主の直営」と言う方がよく分かるようです。それだと昔は普通に行われていましたから。

建築業者の反感はありませんでしたか?

どちらかというと、みんな興味を持って、いっぺん参加してみちゃれ、という感じでした。反感というより、むしろ、こんな方式がもっと広まればいいのに、という声が多かったように思います。

初めての分離発注で、不安はありませんでしたか?

分離発注を行っている設計事務所と勉強会を持ったり、意見交換したりしています。福岡にも経験豊富な建築士がいて、聞けば何でも教えてくれます。ですから、不安はありませんでした。

専門業者の見積もりや契約で、特に気を付けなければならないことは?

契約に至らなかった業者への配慮だと思います。選ばれた業者へは契約の案内を、選ばれなかった業者へは見積もり結果の報告をしました。

施主建と専門業者の契約書は誰が作成するのですか?

専門業者は、契約書をつくることに慣れていませんから、設計事務所で作成します。専門業者は、契約会に印紙と印鑑を持って来るだけです。

金額の調整は順調に進みましたか?

思ったより順調に進みました。予定価格より若干オーバーしましたが、Sさんと協議してグレードを下げず、この内容で進むことにしました。それよりも、工務店の見積もり参加、というハプニングがありました。

勝てるわけないと辞退 ところがもう1社は…

Sさんは、黒土と契約を交わす前、住宅会社の展示場にも足を運んでいました。住宅会社は、Sさんが依頼した黒土の設計がそろそろ終わる頃ではないかと声をかけてきました。
 
Sさんは、分離発注で工事を行う予定であり、専門業者から直に見積もりを集めていると説明しました。すると、その住宅会社は、あっさり引き下がりました。「専門業者から直に見積もりを取れば、こちらがいくら頑張っても勝てるはずがないからね」と。

ところが1社、やる気満々で向かってくる工務店がありました。分離発注で行うとしても、工務店に見積もってもらうこと自体は、工務店の了解さえあれば特に問題はありません。分離発注の効果が果たしてどれくらいか、それを確かめるにはちょうどいい機会です。Sさんは黒土と相談し、見積もってもらうことにしました。

出てきた金額は、分離発注で見積もった金額に比べて、約300万円オーバーしていました。その旨を工務店に伝えました。Sさんも黒土も、工務店はてっきり納得すると思っていましたが、次にもってきた見積もり書は、な、な、なんと300万円の値引きです。

で、どうされたのですか?

かえってその工務店が怖くなりました。工事が始まったら、何をされるか分かりませんからね。やはり、建築士事務所による厳密な工事監理を行う方が安心できると思いました。


建て方の最中に慌ててかけたカンナ

先輩建築士の助言があるとはいえ、初めてのことは、やはり不安です。今日は、Sさんの家造りの最大の山場、建て方の日。

既に前日から木材が運ばれていました。基礎のボルトもチェックし、土台も上手く固定されました。ここまで順調にきました。ところが、昨日あれほど念いりに検品したのに、気が付かなかったのです。

カンナがかかっていないのです。Sさんの家には、梁材を含め水平方向に使用される材木が全部で55本あります。そのうちの13本にカンナがかかっていないのです。普通の家なら何ら問題はありません。建物が仕上がったら、隠れてしまうからです。

しかし、この家のように梁や柱の木材を部屋内に見せるデザインでは、カンナをかけなければ、まるで山小屋です。プレカット工場で、あれほど念を入れて確認したのに……。しかし、大工とは頼りになるものです。棟梁が現場に自動カンナを持ち込んでいたのです。

「よし! わしがカンナをかけちゃる」

建築現場ではいろんなことが起きます。その多くは施主の知らないところで処理されます。しかし、オープンシステムの場合は、すべて施主に報告されます。見方を変えると、オープンシステムでは、施主が工務店の社長のような立場となるからです。

黒土は、「工事監理者」として工事の主要な部分を検査し、すべて書面でSさんに報告しました。「工事監理者」とは、設計図面と施工の内容を照合し、食い違いがないことを確認(検査)する建築士のことです。


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この段階(建て方)で黒土が「監理」し、Sさんへ行った報告は10項目に及びます。ちなみに、床面積100㎡を超える住宅は、建築基準法・建築士法で書面での監理報告を義務付けています。Sさんの家は99.37㎡で、法的に工事監理の義務はありませんが、Sさんと黒土は、品質を確保するために厳密な工事監理を行なうことにしました。

騙されなくてよかった モニター価格の薪ストーブ

疑ってばかりだと何もできませんが、商品の売り込みは巧妙にアプローチしてきます。そして、オレオレ詐欺のよう、騙される人もいます。

「お得なモニター価格」
「只今、キャンペーン中」
「本体無料、取り付け工事費だけの負担」

基本設計の時、Sさんは薪ストーブの導入を真剣に考えました。きっかけは、業者からの「モニター価格」でした。

薪ストーブ本体は無料。
ネスターマーチン社製S33(12,000kcal/h 130㎡対応)
設置工事費(煙突工事費含む)のみ有料、48万円。

相談された黒土は、薪ストーブを導入した経験がありませんでした。それが、幸いしました。黒土は、分離発注を行う全国の建築士にメールで相談しました。すると、すぐに反応がありました。

黒土は、全国の建築士からのアドバイスを逐一Sさんに報告しました。その結果、Sさんは、モニター価格に釣られて判断を誤ることはありませんでした。


分離発注を行う建築士から届いた、薪ストーブのアドバイス

バーモントキャスティング社のアンコールという製品を輸入しました。本体と二重煙突の他に小道具も含めて47.5万円でした。施工は屋根との収まり部分だけ屋根屋さんに頼みました。(3.6万円)あとは私と建築主さんで行いました。本体の搬入は、大工さんたちに手伝ってもらい、6人がかりで行いました。159kgもありました。

そもそも、九州で薪ストーブが必要なんですか? 薪ストーブは、10度以下の気温が数十日もある地域で効果が出ると思っていました。

昨年初めて薪ストーブを設置しました。本体(鋳物製)7.2万円、煙突(ステンレス二重、艶消し)12万円、ファイヤーセット・薪バスケットなど0.9万円、ホンマ製作所から購入しました。施工は、私と建築主と板金屋で行いました。板金屋へ支払った手間賃は1.5万円だったので、合計21.6万円でした。

薪ストーブは奥が深く、うまく設置してあげれば、ほとんどの人はとりこになってしまいます。昨年、ホンマ製作所のものを採用したのですが(価格が安い)、やはり輸入品の方がまだ優れていると感じました。きちんと断熱された家では、できるだけ小さいカロリーものでないと暑すぎて後悔します。

8年間で6棟に設置しました。はじめは広島県内製の鉄板ストーブでしたが、現在はエフェルのハーモニーベータを採用しています。一例を紹介します。最大能力6,800kcal/h 暖房可能面積21坪、定価24.5万円。ストーブ本体、煙突、付属金物の値引きは2割程度。工事費、書経費は10万円以下です。どのくらいの空間容量なのか分かりませんが、断熱をきちんと施した住宅では、能力過剰だと思います。

記者が取材を通して感じたこと

仮に金額の差がなくても、
しっかりプランを検討して工事監理ができた分、得だと思います。

こう言い切るSさんは、とても賢い人だと思いました。気密性、断熱性を重視した上で、構造材を現し自然素材で仕上げる、という方針は大正解だったと思います。おそらく100年はびくともしない家でしょう。

「いいですねえ、Sさんの子供も孫もひ孫も、家のローンを組まなくて済みますから、きっと100年後、ゆたかな暮らしを実感していると思いますよ」

こうお話しすると、Sさん夫妻の顔が、いっそうほころびました。

さて、建築士の黒土さんにとっては、初めての「分離発注」でした。多少のドタバタはありましたが、大きな問題もなく無事完成しました。黒土さんは、建築士(設計・監理者)としての基礎能力がとても高いと思いました。
 
で、黒土さん、あなたをビビらせて、「もう終わりだ」と思わせたお父さん、最後はどうなったのですか? こう質問したら、Sさんと黒土さんから同時に返ってきました。

「お父さんがいちばん喜んだみたい」とSさん。

「竣工式のとき、お父さんがぼくにお酒を注いで、ありがとうって深く頭を下げられた時、じ~んときました」と黒土さん。





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