リスク調整費

工事費を算定する基本は、数量×単価です。数量はCADソフトと積算ソフトを連動させて算出します。しかし、建築工事では、算定した数量をそのまま使うことができない場合が生じます。どのような場合でしょうか。左官材のエターナルアースを例に説明します。

エターナルアースは室内の壁に塗る左官材料です。1缶20kg入りで販売しています。積算ソフトが算出した壁の面積を200㎡とした場合、エターナルアースを何缶購入すればよいでしょうか。メーカーの施工マニュアルによると、「歩留まり18〜23㎡/缶」と書いてあります。1缶で18〜23㎡塗ることができるという意味です。

1缶で18㎡塗ると(200㎡÷18㎡=11.1缶)→12缶必要です。1缶で23㎡塗れば(200㎡÷23㎡=8.7)→9缶必要です。では、9缶購入すべきでしょうか、それとも12缶購入すべきでしょうか?

正解は9缶です。壁を塗りながら様子を見て、材料が足りなさそうだったら追加注文します。最初から12缶注文すると余る可能性があります。

それでは、1缶で「18〜23㎡塗ることができる」という曖昧さはなぜ生じるのでしょうか? それは、人間が塗るからです。

施工マニュアルによると、エターナルアースの適正な塗り厚は1.5〜2.0㎜です。薄めに塗れば少ない材料で済み、厚めに塗ると材料が増えます。もちろん左官職人は承知しているのですが、かといって全体を1.75㎜で塗るのは至難の技です。塗り厚の感覚は、材料の調合や施工時の温度・湿度の影響を受けるからです。

さて、そもそも何故ここでエターナルアースの注文方法を説明する必要があったのかというと、それは、リスク調整費を理解してもらうためです。リスク調整費は、見積の時点で正確に数量を確定できない時に使います。

見積の時点で数量が確定できないのはエターナルアースだけではありません。ボード類にも言えます。石膏ボードを張る場合も、積算した㎡数とボードの枚数を一致させるのはそう簡単ではありません。規格品の寸法0.91m×1.82mのボードを建築現場で切ったり継ぎ足したりして施工するからです。ボード類も最初は少なめに発注して、様子を見て追加注文する方が材料のロスが生じません。このような追加もリスク調整費を使います。

リスク調整費は、見積の段階で工事費の2〜3%を予算化します。着工時に建築主が設計事務所の口座に振り込み、設計監理者の判断で必要な時に使います。使い方を設計監理者の判断に委ねるのは、材料の追加注文などは施工状況を見て判断するので、ぐずぐずしていると手遅れになり工事の進捗に支障が生じるのを避けるためです。

リスク調整費は、工事期間中に設計監理者が管理し、完成引き渡し時に精算して残金をお返しします。リスク調整費の金額はやや余裕を持って設定するので、ほとんどの場合はいくらか残ります。

リスク調整費は、材料の追加発注以外に、仮設トイレの汲取り料金、道路や側溝の養生や掃除、台風など緊急時の養生、警備員配置の必要性が生じた時なども使います。いずれも見積の段階で正確な金額の把握ができないもの、あるいは発生すること自体が予測できないものが含まれます。

リスク調整費は、オープンシステム独特の考え方です。従来の請負方式にこのような考え方は必要ありません。このような経費は、予め工事費にいくらか多めに含めておくことができるからです。


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