もみがら断熱の家


籾殻断熱の家1

何でも揃っているけど

自由性が不足している

ジェフさんは怒っていました。「日本では住みたい家を建てられないのか!」家づくりを思いたってからいくつか住宅会社を訪ねましたが、返ってくる答えはどこも同じでした。「日本ではムリ、費用がかかり過ぎる」。

家をつくるにあたり、ジェフさんにはどうしても実現したいことがありました。それは、籾殻を断熱材として利用することでした。北米には籾殻断熱の住宅がいくつもあることをジェフさんは知っていました。米を主食にしている日本なら、籾殻はいくらでも手に入ると考えたのです。


籾殻断熱の家3

ところが意外なことに、ジェフさんが訪ねた住宅会社で、籾殻断熱を知っているところはひとつもありませんでした。(籾殻は優れた断熱材なのに、どうして利用しないのだろうか?)ジェフさんがいくら説明しても、住宅会社の人はまったく理解しようとしません。全国展開をしているハウスメーカーは、断熱方法を変えることなどできないと、はじめから対象外だし、地場の工務店は籾殻断熱にしたら通常の断熱の数倍もコストがかかると言います。

ジェフさんには、タダで手に入る籾殻がどうして数倍ものコスト高になるのかさっぱり理解できません。ただ、日本の住宅で籾殻断熱を使うのは相当困難だ、ということは分かりました。


日本の家づくりは

なんて不自由なのだ!

ジェフさんには、籾殻断熱の他にも実現したいことがありました。優先順位の高い方からあげると、まず敷地の斜面を生かした建物の設計です。

この要望も住宅会社には受け入れてもらえませんでした。どの住宅会社も、擁壁をつくって敷地を平坦にした方がいいと言います。その方が建築しやすいし、余計な費用もかからない、と。(本当にそうだろうか? かえって造成工事に大きな費用がかかるのではないか? 建物の基礎と擁壁を兼用するなど、設計上の工夫で全体の費用を抑えることはできないのだろうか?)


籾殻断熱の家4

ジェフさんは、もうひとつ実現したいことをぶつけてみました。それはセルフビルドです。壁の塗装やちょっとした大工工事など、できることは自分でやりたい、と。
 期待はしていませんでしたが、どの住宅会社もやはり難色を示しました。自分で工事をしても構わないが、その部分は責任が持てないと言うのです。

(籾殻断熱といい、斜面を生かした設計といい、セルフビルドのことといい、住宅会社の人は面倒なことを嫌がっている。日本の住宅会社は決められたこと以外はしてはいけない決まりなのか? 何て不自由なのだろう!)


籾殻1

ジェフさんが生まれたカナダでは、家づくりはもっと自由でした。建築職人に頼むところ、セルフビルドでやるところなど、自由に決めることができました。また、必要な建築職人を手配し、相談に乗ってくれる専門家もいました。
 

設計事務所に依頼したら

自由度が高くなるか?

このままでは住みたい家がつくれない。こう思ったジェフさんは、奥様から紹介された設計事務所に相談しました。設計事務所ならもっと自由がきくだろうと考えたのです。

その設計事務所は模型を作り、斜面を利用した住宅を提案しました。とても洒落たデザインでした。ところが、肝心の籾殻断熱には否定的でした。「あまり難しい要望を出すと、建築業者が嫌がるからねぇ…」。

ジェフさんは落胆しました。(顧客の要望より建築業者の都合を優先するとは、どういうことだろう? よし、こうなったら自分でつくるしかない!)


籾殻3

ジェフさんは、設計事務所との契約を解除し、すべて自分でつくると決心しました。そして、大工道具の調達に没頭し始めました。その姿を見て奥様が心配になりました。誰か相談できる専門家はいないものかと、インターネットで検索していると、興味深いコピーを目にしました。「建築会社に頼らない家づくり」

さっそく電話をして、次の質問をぶつけました。「ツーバイフォーの経験はありますか?」「ありません。しかし、誰に聞いたらいいか知っています」「籾殻断熱に対応できますか?」「その断熱方法は知りませんでしたが、面白そうですね?」「主人が工事することはできますか?」「ご主人が工事できるよう、設計や工事の行程を工夫しましょう」

(この建築士ならジェフと上手くやれるかもしれない…)奥様は、ジェフさんへ取り継ぎました。
 

籾殻断熱が縁で

大学の恩師と再会

その建築士は、後にプラスエム設計に合流する黒土敏彦でした。奥様の狙い通り、ジェフさんとすぐに意気投合し、さっそく家についての議論が始まりました。

籾殻断熱に関する研究の第一人者が山口大学にいると知った黒土は、教えてもらうことはできないかものかと電話をしました。いくつか会話を交わしたところで、「黒土、いいところに目をつけたな」「えっ?」
 
何と、研究者の中園先生は、黒土の母校、大分大学の恩師だったではありませんか。先生の研究によると、籾殻は建築の断熱材として最も多く使われているグラスウールと同等の断熱性能を有しているといいます。古くは桂離宮の床下に断熱材として利用していたことも分かりました。

籾殻6

意外にも、籾殻は燃え難い素材です。(童話『三匹の子豚』をご存知の方は、ワラの家はよく燃えると、すぐに思い浮かべるでしょうが)籾殻はシリカ系で、燃えにくく、しかも腐りにくい材料です。

ただ、籾殻自体を虫が食べることはありませんが、籾殻に付着している米粉を食べる虫がいます。そこで、籾殻を断熱材として使用するには、洗って乾燥させるか、焼いて炭化させるかしなければなりません。
 
さて、どうするか? ジェフさんが結論を出しました。
「余計な費用をかけたくありません。虫が食べてもいいです。米粉が無くなると虫もいなくなります」。

籾殻の画像

ジェフさんは、農家の方から籾殻を無償提供してもらい、大工から借りた1トントラックで建築現場を14往復もしました。施工も苦労の連続でした。セルローズファイバー(紙を綿状に加工した断熱材)を壁の中に吹き込む機械を試してみたのですが、あえなく失敗しました。籾殻は意外と重く、少しずつしか入らないのです。結局、壁の上からホッパーで落とし込むことになりました。

予測していたことではありましたが、籾殻自体の重みで沈下し、上の方に隙間が生じました。そこで、発泡系の吹き付け断熱材で隙間を埋めることにしました。

断熱工事も床の仕上げも

ジェフさんのセルフビルド

ジェフさんの住宅は3層構造です。鉄筋コンクリート造半地下の上に、木造2階建てが乗っています。したがって、半地下と2階の床は鉄筋コンクリートです。

ジェフさんは、コンクリートの床を鏡面仕上げにする工事に挑戦しました。ナチュラルステイン(コーヒーと錆びた鉄)でコンクリートに色を付け、表面を液体ガラスで磨く工事です。

画像

そもそも、こういう工事を行う業者は全国でもそう多くありません。設計段階で愛知県と神奈川県の業者を見つけて見積もりをとると、それぞれ140万円と160万円でした。遠方から来て手仕事で行うので、どうしても人件費が高くなるのです。
 
ジェフさんは、その工事を10万円以下でやってのけました。ナチュラルステインと液体ガラスで数万円。残りは施工業者から借りた機械の消耗部品代です。ジェフさんのあまりの熱意に、施工業者が機械を無償で貸してくれたのです。
 
籾殻断熱の工事は大工さんに手伝ってもらいながらのセルフビルドでしたが、コンクリートの鏡面仕上げは、ほぼジェフさん一人でやり遂げました。
 
当初ジェフさんが希望した、「籾殻断熱」「斜面を生かした設計」「セルフビルド」の3つが全て実現しました。

籾殻断熱の家2
 
ジェフさんの住宅が完成して半年後、黒土が訪問すると、コンセントの隙間からコメムシが這い出していました。奥様は嫌がっていましたが、ジェフさんは一向に気にしません。それから2年が経過しました。再び黒土が訪問すると、コメムシの姿は消えていました。
 
厚さ30センチの壁の中には、ジェフさんが施工した籾殻がびっしり詰まっています。
「エアコン(16畳対応)1台で、家中快適です。黒土さんに出会っていなかったら、この家はできなかったと思います」と、奥様。
 
後日談ですが、ジェフさんの家づくりは、『ロンプク☆淳のいつかは福岡生活』(九州朝日放送)で放送されました。(2018年1月27日)