みっともないは

励ましの言葉

10年後を見理、と決意した時のことです。それは、オープンシステムのきっかけとなった、レストランの改造工事。内外装に使う石工事を少しでも安くあげようと、石材店と加工の仕方などを検討していました。石の加工が終わったら取りに行くという約束で。

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みっともない
そげなことまでして

石材店から石の加工が終わったという知らせを受け、建築主と共に取りに行きました。いつもは鉛筆しか持たない設計者と、たまにフライパンを持つ建築主。石の荷揚げは予想以上にきつい労働でした。しかし、少々きつくても、このような汗のかき方は、普段の仕事では味わえない楽しさがありました。
 
その頃、建築主と設計監理者の共同作業は、ほぼ日課になっていました。建築主は、この店以外に3店舗ほど経営しており、昼間はそれらの店を順番に回りながら、やはり工事中の店が気になるらしく、よく現場をのぞきにきては一緒に作業をしました。昼間に顔を出さない日でも、夕方になれば必ず現れました。そして私たちは、労働の後の一杯が楽しみになりました。
 
工事現場の周囲は飲食街です。1ヶ月という短い期間でしたが、髭おやじと細目のコンビが付近の店に出没しました。そこで私たちは、多くのことを語りました。仕事のことも、そして、仕事以外のことも。夢を語るレストランの社長から、実に多くの刺激を受けました。

さて、石の話に戻ります。大工から借りたトラックに積んだ石を、工事現場で降ろしていました。レストランの社長は用事があって別のところへ行ったので、一人の作業です。予想以上に時間がかかり、気がつけば工事現場はいつのまにか暗くなっていました。その時でした。

「山中社長!何をみっともないことを。設計事務所の社長がそげなことまでして」
 
振り向けば、顔見知りの工務店の社長でした。冗談っぽい短い会話を少し交わした後、その社長はネオン街に消えました。確かに私のしていることは、普段設計事務所はやらない作業かもしれません。しかし、私自身は少しも「みっともない」とは思っていません。世間の目にはそう映ることは承知の上ですが。

設計事務所が置かれている立場もよく分かっていました。普段、先生と呼ばれて持ち上げられていることも承知していました。現実の実務の中では、このような形とはいえ、建築主の希望を叶えるために、設計監理者が知恵と労力を精一杯注ぐことが、限りなく失われていました。
 
だから、「みっともない」という意識などはなく、むしろ得難い体験として内心では喜んでいました。少なくとも、平日の昼間からゴルフに興じて、夜はスナックのお姉さんと友好活動に励むよりは、はるかに建設的だと思っていたのは間違いありません。
 
とは言っても、「みっともない」という言葉を投げかけられて、それを「誇り高き言葉」と受け止めるほど、私は精神的な鍛錬を積んでいません。追いかけて「どついて」やろうと思いましたが、それは止めました。こんなところで勇敢になってもしょうがありません。ここは歓楽街です。

今はまだ、誰も知らないけれど、この建築手法を必ず日本中に広めてみせる。よし、10年後を見ろ、と決意した瞬間でした。結果的に「みっともない」は、私にとって「励ましの言葉」へと変じました。工務店の社長さん、ありがとう。



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